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日本の商材に新たな価値を。挑戦をつづけるビジネスマンの話

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開店してわずか1年で、海外から多くの来店客を集める小さな包丁店に、越境ECビジネス成功の手がかりを見つける。

食器や調理器具を扱う専門店が軒を連ねる、東京都台東区「かっぱ橋道具街」。訪日外国人も多く訪れるこの界隈の中でも、ひときわ外国人客が多く集まるお店がある。その名は、「MUSASHI JAPAN」。1階では様々な種類の包丁を展示・販売しながら、2階では日本酒の利き酒が楽しめるというユニークなお店だ。

ネットのクチコミには、「芸術品のような包丁をたくさん見れる」「ここで購入した包丁は驚くほどの切れ味」「求めていた包丁に出会えた」といった好意的な声が溢れている。外国語のクチコミも多い。DHL Expressを活用した海外への越境販売も好調だという。包丁という日本の日用品を扱うこの小さなお店が、なぜここまで外国人客に人気なのか。社長のアレン・ワン氏にお話しを伺った。

老舗を超越する魅力 ~ストーリーを共有する~

いつから店舗で商売を始め、どのタイミングからオンラインへ参入したのか。まずは、越境ECで成功してきた数々の事業者への取材と同じ質問から始めた。ところがアレン氏からは意外な答えが返ってきた。「うちはオンラインが先で、店舗が後なんです」。店舗は昨年オープンしたばかりだという。

台湾にルーツを持つアレン氏。物心がついたときからこの台東区界隈で育った。2020年のある日、何気なく自転車をこいでいるときに、ふと目に留まった包丁の店に入った。そこで、のちに一緒にビジネスを立ち上げることとなる店員のジャックと出会う。彼に包丁について説明を求めたが、種類や素材が多くとても難解だった。商品は魅力的なのに、その良さが伝わりきらない。「海外の人がこれで分かるのだろうか」。もどかしさを感じる一方で、伝え方を工夫すればもっと多くの外国人に理解してもらえるのではないか。そう思いついたアレン氏は、たった2日でビジネスアイデアをまとめ上げ、ジャックを誘って「MUSASHI(武蔵)」というブランドを立ち上げた。

「まだ日本の包丁が、海外からそれほど注目されていない時期でした」。和包丁という商材に巡り合ったのは偶然だったが、アレン氏の頭の中には、越境ECで起業するロードマップはすでにできあがっていたという。

オンラインで成功しているのに、あえて競争の激しいかっぱ橋に店舗を構えた理由をこう説明する。「日本の伝統品を販売する上で、顧客体験ができるベースが必要だと考えたんです。例えば包丁であれば、武士の時代から連綿と続く侍の精神など、日本の商材にはストーリーがあります。そのストーリーを感じてもらうためにも、顧客体験ができる店舗が必要なんです」。開店してたった1年で、老舗が軒を連ねるかっぱ橋の中でも、ひときわ集客を誇る店舗になった。「将来は日本の伝統品で、広く衣・食・住をカバーするラインナップを揃えたい。このお店はそのベースとしていきたいと思っています」。

越境ECの強みを最大限に活かす

起業前は、大手広告代理店で訪日観光客の誘致や、日本食・魚を広めるプロジェクトなど、政府や自治体と様々な施策に携わった。日本の伝統文化や観光資源を世界にPRするプロジェクトは、やりがいが大きかった。しかし、一方で限界も感じた。国策なので俯瞰した大きな枠組みは動かせるが、消費者の近くまで掘り下げて行けない。「せっかく日本にはたくさんの魅力的な商材があるのに」。ジレンマを感じていたアレン氏は、広告の世界を出て商売の道を選んだ。「両親が、ともに実業家だったんです。父は精密メーカー、母は飲食店を経営していて、食卓での家族の会話も経営に関することが多かった。ですから、自然と自分もビジネスをやることに抵抗はなかったです」。

越境ECでビジネスを始めたアレン氏は、オンラインの強みをこう語る。「オンラインは、継続してコミュニケーションが取れることが強みです。1本目の包丁を購入した顧客データから、次にどのようなタイプの包丁が求められるかが分かります。また、定期的なメンテナンスのサポートも容易です。和包丁は、20年から30年と長く大切に使うものですから。」販売からアフターサービスまで、オンラインの強みを最大限に活用して、必要なときに必要な情報で顧客にアプローチする。

一方で、越境ECでは物理的に商品を届けるロジスティクスも強くなければならないと言う。「お客様は購入したときが一番ワクワクしているんです。その気持ちが冷めないうちにお届けするには、早く正確に届けられるロジスティクスが重要です」。顧客満足度を重要視するアレン氏は、DHL Expressを選んだ理由をそう語る。「暴風雨の中でも、DHLのスタッフが集荷に来てくれたことを今でも覚えています。お客様へ届けられるか心配していたのですが、笑顔で『大丈夫です』と言っていただき心強かったです。」

包丁は、どの国のどんな家庭にもニーズがある。世界中のマーケットにアクセスできる、広大なサービスネットワークを誇るDHLが、MUSASHIのストーリーを世界中の消費者へ届けている。

和包丁の伝統も変えていく

日本と大陸との中間に位置する、長崎県対馬。古来より交易や国防の最前線となってきたこの島は、今では海流の影響で、大量の海洋プラスチックごみが漂着する島となっている。その量は年間約3,000トンにも及ぶという。それを知ったアレン氏は、漂着したプラスチックごみを成型して包丁の持ち手部分にすることを思いつく。

しかしプラスチックを使った包丁は「邪道」だとして、職人には賛同してもらえなかった。それでも、「このままでは、魚が住めない海になってしまう。刺身や魚を捌く包丁が、その現実を無視することはできない」と訴え、賛同してくれた包丁職人と、二人三脚で開発へのチャレンジが始まった。

プラスチックとはいえ雑多なプラスチックが堆積した海洋プラスチックは、融点が定まらず成型には困難が伴った。また、熱をかける工程では独特の強烈な異臭が職人たちを苦しめた。しかし諦めずに何度も工程を変えて乗り越え、サステナビリティという新たな価値をもった和包丁が誕生した。1年半もの長いチャレンジだったという。

「それまで和包丁の持ち手は、伝統的にヒノキなどが主流でした。でも価値観や求められるものは時代とともに変わっていくんだと思います」。その証拠に、『対馬海洋包丁』と名付けられたこの新商品は、多いときには月間100本ほど販売されており、店頭に陳列するサンプルも間に合わないほど売れ行きが好調だという。海洋プラスチックごみが姿を変えた日本の包丁に、多くの消費者が共感し価値を見出した。

新たなストーリーで登場したMUSASHIの包丁は、DHL Expressの「GoGreen Plus」で世界中のお客様届けられている。持続可能な航空燃料を使用して二酸化炭素の排出を削減する、画期的な環境ソリューションだ。「社会的に意義のあることは、これからも積極的に採用していきたい」そう言ってアレン氏は、このサービスを選んだ理由を説明する。

伝統の商材に新たなストーリーと価値を与えて、世界に広げる。MUSASHIのビジネスは、越境ECビジネスの新しいスタイルと言えるだろう。