
ラストマイル配送とは、商品が顧客の手元に届くまでの「最後の区間」の配送工程を指します。
この工程では、できる限り迅速かつ正確、そしてコスト効率良く荷物を届けることが求められます。通常はバンや車、自転車などを使った道路輸送が主流ですが、スーパーマーケットや宅配ロッカーへの集約配送、さらには自律型ロボットやドローンといった新たな手段も登場しつつあります。
近年のEC市場拡大を背景に、ラストマイル配送の効率化やサービス向上の重要性がますます高まっています。自宅や職場など消費者の手元に荷物を届ける最終工程は、物流全体のコスト構造や顧客満足度に直結するからです。
迅速かつ正確な配送を行うためには、ドライバー不足やコスト上昇、再配達の負担など多面的な課題に対処する必要があります。企業は新技術の活用や協業体制の構築など、さまざまなソリューションを検討している状況です。
本記事では、ラストマイル配送の基礎知識から主な課題、最新の事例や解決策までを幅広く解説します。これからラストマイル配送の強化を目指す方や情報収集をしている方は、ぜひ参考にしてください。
「ラストマイル」もしくは「ラストワンマイル」配送とは、物流拠点や配送センターから最終的な配送先である消費者や企業までの「最後の区間」を指します。EC市場の拡大に伴い、この最終工程にかかる手間とコストが全体の物流効率を大きく左右する要因となっています。
では、なぜラストマイルはそれほど困難なのでしょうか?鉄道、海上、道路、航空の複雑なネットワークが、世界中で毎年何十億個もの小包を輸送しています。これらは専用ルートや専門車両を使い、長距離にわたって緻密に管理されたネットワークです。しかし、旅の重要な最終区間―つまり地域ハブや配送センターから顧客までのラストマイル-は、長距離輸送で見られるような管理、一貫性、規模をまったく備えていません。
想定外な交通渋滞、通行止め、ルートの変更、気象条件、そのほかさまざまな予測不可能な障害に、ラストマイル配送を請け負うドライバーは、そのつど個別に対処する必要に迫られます。輸送事業者の視点で言えば、物流サイクルの中で最も効率化がはかれない部分となります。単純に比較はできませんが、一度に数千単位の荷物を運ぶ航空輸送と比べると、1つの目的地に対してたった1個の荷物だけを配送する場合や、発生する個別の状況に応じて何度も停車を余儀なくされる場合は、その差はあまりにも大きいと言えるでしょう。一方で、ほとんどのEC輸送において、このラストワンマイルを担う配送ドライバーが、唯一直接的に消費者と対面することになり、消費者の購買体験の要素のひとつと考えるとその役割は大変重要です。
物流の最終工程には、コストや労働力確保など多岐にわたる課題が存在します。ラストマイル配送では、荷物配送から顧客対応までのすべてが大きな労力となり、そこで顕在化する課題を放置すると、企業収益のみならず顧客満足度まで低下させかねません。特に再配達や顧客の受け取り方の多様化への対応は、近年重要性を増しています。また、消費者が求める「早く・無料で」届けるサービスと、実際の配送コストのバランスの難しさも大きなテーマです。
ラストマイル配送が直面する3つの課題:
ラストマイル配送にかかるコストは、配送コスト全体のじつに41%を占めると言われています¹。事業者がそこに他社との差別化をはかり、競争に勝ち抜くためには、どのような選択肢が考えられるでしょうか? コストをできるだけ抑えながら、消費者が求めるシームレスかつ高品質なサービスを提供できる輸送事業者を選択することも、ひとつのソリューションとなります。宅配拠点最適化や在庫分散、そして拠点を跨いだ共同配送などの仕組みづくりによって、コストとサービス水準の両立を図ることが不可欠です。
昨年DHLでは24ヵ国12,000人を対象に、「オンラインショップにおける海外の消費者動向調査」を実施。ユーザーが配送に関してどのような要望を持っているかなど詳細を紐解いています。
主な5つの要素を検証してみましょう。
近年注目されている配送ソリューションのひとつが、地域密着型の倉庫や「ダークストア(※注1)」を活用した在庫の分散管理です。売れ筋商品を戦略的にこうした小規模倉庫やダークストアに配置することで、最終配送地点までの距離を大きく短縮でき、配送時間の短縮や、いわゆる“ラストワンマイル”のコスト削減につながります。特に大都市圏では、このようなアプローチが非常に効果的とされ、業界内ではこれらの都市を「パワーシティ」と呼ぶこともあるほどです。日本に限らず海外のこうした人口密度の高いエリアでは、より超ローカルなフルフィルメントオプションへの需要が年々高まっています。
Eコマース企業がこの戦略を導入する際には、以下のステップが重要です:
このような地域特化型の戦略は、さまざまなEコマース業種にとって大きなメリットをもたらします。たとえば、ファッション業界では、シーズンごとの人気アイテムをローカルで確保することで、セール時期や繁忙期でも即日配送が可能になります。「日用消費財」(Fast Moving Consumer Goods)を扱う事業者は、生鮮品や生活必需品を数時間以内で届ける超高速フルフィルメントにダークストアを活用しています。家電量販店においても、高額商品や頻繁に注文されるアイテムを顧客の近くに配置することで、安全かつ迅速な配送を実現できます。また、自社で倉庫ネットワークを構築するのが難しい場合でも、柔軟な保管サービスを提供する物流パートナーと提携すれば、初期投資を抑えながらもローカル戦略の恩恵を受けることができます。
※注1:「ダークストア」とは、ECサイトから注文をうけて商品をピックアップする、一般の来店客を受け入れない、配送拠点としての小売店舗。
Eコマース企業にとって、ラストマイル配送の柔軟性を高める手段のひとつが、クラウドソーシング型の配送プラットフォームなど、「臨時の配送リソース」の戦略的な活用です。これは特に、セール期間やキャンペーン時など、短期的に需要が急増する場面で特に効果を発揮します。既存の物流インフラに過度な負荷をかけることなく、増加した配送ニーズに対応できるのが大きな利点です。このような手法では、あらかじめ審査された地元ドライバーのネットワークなど、オンデマンドで稼働可能な人材を活用することで、必要なときに迅速に配送キャパシティを強化できます。特に都市部では、当日配送や緊急対応といったニーズに応える上で、非常に有効な手段となります。
こうしたアプローチを検討する際には、以下のポイントが重要になります:
さらに、臨時ドライバーの活用に加えて、代替の受け取り拠点を設けることでも、配送の柔軟性と顧客満足度を高めることができます。
配送ルートを人手で組み立てるのは、時間がかかるうえに非効率になりがちです。特に、大型や重量のある荷物に関しては、クラウドソーシング型の配送ソリューションでは十分に対応できないこともあります。こうした荷物を都市部で運ぶ際には、狭い道路を通ったり、荷降ろし場所を探し回ったりと、特有の課題が発生します。実際、配送ルートの逸脱によってドライバーの走行距離の3~10%*²が無駄になっているというデータもあり、こうした非効率は見えにくいコストとして積み重なっていきます。
そこで注目されているのが、AI(人工知能)とアナリティクス(データ分析)によるラストマイル配送の最適化です。これらのテクノロジーは、交通状況や配達先の住所、希望配送時間、車両の積載能力、ドライバーの稼働状況など膨大なデータをもとに、リアルタイムで最適なルートを自動計算・割り当てしてくれます。AIによるルート最適化を導入すれば、燃料使用量とコストの削減、無駄な走行の排除、配送時間の短縮、顧客満足度の向上、そしてCO₂排出量の削減と、まさに一石五鳥の効果が期待できます。実際には、多くの配車担当者や配送業者が、毎日3~4時間*³もの時間を手作業でルート組みに費やしているとも言われています。
データに基づいたアプローチは、以下のような効果を期待できるのです:
Eコマース事業者が活用すべきAI関連ツールを挙げてみましょう。
DHLサプライチェーンのグローバルデジタル推進部門の責任者ティム・テツラフは次のように述べています:
「予測可能で構造化された環境では、ロボットが単調な作業や長距離移動を担い、人間は創造性や判断力が求められる作業に集中できます。AIとロボットは人に代わるものではなく、人をサポートするためのパートナーです。」
そして、最もインパクトが大きいのが環境への効果です。
AIによるルート最適化を導入することで、配送車両のCO₂排出量を最大25%削減できるという報告もあります。実際に、ソフトウェア企業Descartes(ディスカーティス)社のルート最適化ツールは、552,000トン以上のCO₂排出削減と、5〜25%*⁴の燃料使用量削減という成果を達成しています。これは、単に「最適なルートを選ぶ」だけで実現できる、非常に大きな成果と言えるでしょう。
スーパーマーケットや都市の中心部など、人の往来が多い場所に設置された「スマートロッカー」の利用が年々拡大しています。同時に、ドローンやロボットによる配送を本格的に検討する企業も増えてきました。これらの新しい配送手段は、都市部の慢性的な交通渋滞や、ニッチなニーズへの即時対応、そして深刻化するドライバー不足*といった課題に対する解決策として期待されています。(*日本だけではなく世界的なトラックドライバー不足は、国際道路運送連合(IRU)から調査結果が発表されています。)
すでにドローンは、医薬品や血液といった高価値・緊急性の高い物資の配送に使われ始めており、技術の進化とともに、物流全体におけるその役割の幅も広がりつつあります。特に、Eコマースの需要拡大や都市部の混雑、そして物流人材の不足といった現代のサプライチェーンが抱える課題に対し、有効な一手となる可能性があります。まだ実用化には多くの課題が残る分野ではありますが、開発と導入の動きは確実に加速しています。たとえばDHLは、ドイツ国内の遠隔地向け配送に特化した「パーセルコプター」の試験運用に成功しました。また、米国のZipline(ジップライン)社は、医療品のドローン配送で連邦政府の認可を受けるなど、規制をクリアした取り組みも始まっています。さらに、ブルガリアの新興企業Dronamics(ドロナミクス)のような大型貨物ドローンを開発する企業や、地上型の自律配送ロボットに注力するスタートアップも登場し、ラストマイル領域に変革をもたらそうとしています。こうした新技術を導入しようとするEコマース企業にとっては、将来的な利点と現時点での制約の両方を冷静に見極めることが求められます。
ドローン・ロボット配送の潜在的メリット:
現時点での課題・制約:
こうした新技術の導入は、すぐに全てを置き換えるというよりも、特定のニーズやシチュエーションにおいて、従来型配送の補完や強化を担う形で進んでいくと考えられます。配送の未来は、より柔軟でハイブリッドな姿へと進化しているのです。
ラストマイル配送における「速さ」や「確実性」に対する顧客の期待は年々高まっており、それに応えるためには相応のコストが発生します。実際、ラストマイルは総物流コストの中でも大きな割合を占めるケースが多く、Eコマース企業にとっては収益性と顧客満足度のバランスを取ることが非常に重要です。このバランスの取り方次第で、ブランドの評価や顧客ロイヤルティ、そして利益率にも直接影響が及びます。ラストマイルが単なる商品の受け渡し以上に、ビジネス全体の質を左右する重要なフェーズであることが改めて浮き彫りになります。ここでは、配送コストと顧客の期待のバランスをとるための実践的な戦略をいくつかご紹介します。
バランスを取るための6つの実践戦略:
顧客満足と利益を両立させるためには、ただ「早く届ける」ことだけでなく、コスト構造を理解し、顧客との対話の中で選択肢を適切に提示することが求められます。ラストワンマイルの最適化は、今やロジスティクスの枠を超えたビジネス戦略の一部なのです。
Eコマース業界におけるラストワンマイル配送は、技術革新と消費者ニーズの変化に応じて、絶えず進化を遂げています。特に、在庫のローカル化の進展、AI・高度なデータ分析・自動化技術の普及などが、商品が最終的に届けられるプロセスそのものを大きく変えつつあります。こうした潮流に適応できるかどうかが、顧客満足度の向上や競争優位の確保に直結する時代になっています。今後の成功には、以下のような要素が欠かせません:
また、B2B領域においても、スピード・可視性・専門的な取り扱い能力への期待が高まり、ロジスティクスネットワーク全体の革新が求められています。このような未来に備えるためには、柔軟かつ適応力のあるラストマイル戦略の構築が不可欠です。
それには、以下の取り組みが重要です:
ラストマイル配送の最適化は、信頼できるパートナーとともに進めることで、よりスムーズに実現できます。DHL Expressは、以下のような強みを活かし、Eコマース事業者のラストマイル課題を支援します:
また、最新のテクノロジーによるルート最適化や、地域ごとの在庫保管戦略にも対応し、お客様のラストマイル全体を強化します。
ラストマイル配送とは、商品が顧客の手元に届くまでの「最後の区間」の配送工程を指します。
この工程では、できる限り迅速かつ正確、そしてコスト効率良く荷物を届けることが求められます。通常はバンや車、自転車などを使った道路輸送が主流ですが、スーパーマーケットや宅配ロッカーへの集約配送、さらには自律型ロボットやドローンといった新たな手段も登場しつつあります。
配送時間は、次のような複数の要因によって異なります:
近年では、単に速さだけでなく、正確性や配送状況の可視化(トラッキング)も、消費者にとって重要な判断基準になっています。
現代の消費者は、スピード、コスト、品質のすべてを求めるようになっており、ラストマイル配送はEコマース体験を左右する決定的な要素となっています。配送は多くの場合、顧客とブランドの「唯一のリアルな接点」であり、配送ドライバーはその企業の“顔”として見られることもあります。そのため、以下のような多様な配送オプションの提供が重要になります: