#ロジスティクスアドバイス

物流ならびにラストマイル配送におけるAIの活用

Oliver Facey, Senior Vice President Global Network Operations Programs, DHL Express
Oliver Facey, Senior Vice President Global Network Operations Programs, DHL Express
オリバーは、DHL Expressのオペレーションプロセスとシステムをグローバルに開発し、導入した豊富な経験を持っています。
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man in a warehouse

さまざまな企業による人工知能(AI)の導入と適用が加速しています。英国政府のデータ倫理・イノベーションセンターによると、AIを最も先進的に活用している物流業界ではこの新たな技術によって業界のイノベーションを加速させ、主要なビジネス機能を改善することで目に見える形で消費者にメリットをもたらしています。 

ラストマイル配送とは、物流の最終拠点から消費者へ届くまでの最終区間のことです。この記事では、今現在、あらゆる側面からAIが物流企業のオペレーションをどう変えつつあるのかというテーマについて、DHL Express のグローバルネットワーク オペレーションプログラム担当副社長を務めるオリバー・フェイシーの独自の見解を紹介します。それではさっそく、AI利用の現況と今後の展望についての考察を見ていきましょう。

「AIは、当社のネットワークに画期的な変化をもたらします。すでにAIが登場してから相当な年月が経っていますが、日々進歩し続ける最新のAI技術を取り入れることで、それ以前であれば実現不可能だったプロセスの最適化が現実のものとなり、顧客サービスをより一層改善していくことが可能となります。物流業界のリーダーとしてのDHLのミッションは、さらにスムーズかつスピーディなラストマイル配送を消費者に提供することです。そして言うまでもなく、この分野においてAIが重要な役割を果たします。しかし、それだけではありません。AIは、サプライチェーンの上流工程においても、予測分析、荷物の仕分け、カスタマーサービス、さらには企業全体の問題対応能力に至るまで、様々な分野に劇的な変化をもたらしています。当社のスモールビジネスのお客様の多くは、現在もっとも競争の激しいEC分野の事業者です。発注された荷物の梱包時間を1分1秒でも短縮し、在庫を最適化することで、トータル的なコスト削減につながります。まさにその部分において、AIが力を発揮しています」

ラストマイル配送における課題

AIがもつポテンシャルを最大限活用して物流の最適化を実現するには、まずは多くの企業が直面している現在の課題に目を向ける必要があります。10年前は取扱量の10~15%でしたが、今日では40%に達しているように、EC事業者と消費者との間で行われるB2C取引の件数は爆発的に増えています。この顧客ニーズの急増にともない、オペレーション上の課題も増えています。DHLのオンデマンドデリバリー (事前配達通知・受取方法指定サービス)は、消費者のニーズの一部を満たしてきましたがAIをさらに活用することで、さらなる期待に応えることが出来るでしょう。 

物流におけるAIのメリット

では具体的に、AIが物流の世界にどのような変革をもたらすのでしょうか?実際よく聞かれる質問ですが、DHLはお客様に最高のサービスをお届けするために常に探求と試行を続けています。AIの活用例としては、以下のものがあげられます。

ラストマイル配送ルートの最適化

多くのお客様が、荷物が正確にいつ到着するか、その情報を知りたいと考えています。当社が取り扱う国際貨物の量は膨大で、数えきれないほどの貨物機が世界各地を常に飛び回っています。追跡が必要な荷物の件数だけでも、相当な数にのぼります。膨大な手間と時間をかけて予測分析と予測モデルの改善に取り組んだ結果、現在では、たとえば、ある特定の荷物が指定された施設にいつ到着するのか、90% ~ 95% の確実性をもって予測することができます。さらには、それらの情報を活用して、配送のルート計画を仮作成し、適切な配送数量と配送サービス、その他の重要要素を算出・予測しています

また、実際に荷物を配送車両に積み込んだ時点で、AI搭載のWise Systems (ワイズ・システムズ)のソフトウェアを使って、さらに配送ルートを最適化します。わずか数秒のうちに、120か所の届け先で構成されるルートを選定できるのです。さらには、医療関連などの緊急を要する配送や、時間を指定した配達時間保証サービスなど、個別のパラメータをふまえた上で、それぞれの届け先間の距離も考慮し、最終的な配達順序を決定できます。

その上で、「Follow My Parcel」と呼ばれる機能を使って、実際の配達予定時刻をお客様にお知らせします。さらに配達時間が迫れば「あと 20 分で到着します」といった正確な到着時間をお客様に通知します。ただしその時点でも、お客様のご都合が悪ければ受け取り予定を変更できるのです。配達時間を遅らせることや、受取り先に隣人宅を指定することもできます。この結果、お客様の満足度の向上だけではなく、配送の初回配達率の向上の実現にもつながりました。

AIがより効率の良いルートプランニングを可能にすることで、燃料消費の削減や配達時間の短縮が実現でき、その一方で、受取人にとっても配達時間帯をより厳密に指定し、配達方法や場所の変更も可能となるなど、柔軟性をもったサービスを選択することが可能となりました。 

AIによる予測分析情報を実際に予測ルートに落とし込むシステム化や、「現場の配達スタッフの知識や経験則」もシステム内に変数として組み入れていく部分に、まだまだ多くの課題があるのも事実です。地域の特性や消費者の嗜好に関するすべてがデータやシステムによって把握されているわけではないため、この情報を意思決定と連携させ、予測分析の精度をさらに改善していくことが、今後の継続課題と言えるでしょう。  AI活用と下流工程の配達プロセスの成功を左右する鍵となるのは、正確で関連性が高く、タイムリーかつ高品質なデータをいかにして確保するかになります。データこそがDHLの「生命線」です。そしてその重要性は、ますます高まっているのです。

ビジョンピッキング テクノロジー

DHLで活用されている「ビジョンピッキング」は倉庫内通路や商品保管位置などの情報をARで表示してくれるサービスです。中でも注目されているのが「スマートグラス」の装着です。従来の手持ちスキャナーに代わり、倉庫スタッフがバーコード読み取りと音声コマンドに対応したウェアラブルグラスを装着することで、作業時間を大きく短縮できます。 

当社は現在、このテクノロジーの導入をグループ全体として具体的に検討しています。たとえば、荷物を流すベルトコンベアの両側に100人の配送スタッフが並んでいる場面を想像してみてください。それぞれのスタッフが、ひとつひとつラベルを見て住所を確認し、目的の荷物を探すのではなく全員がゴーグルあるいはそれに類似した視覚読み取りツールや視覚ガイド機能によってバーコードを自動で読み取り、各車両に積み込む荷物を瞬時に判別できるとすれば、大幅な作業時間短縮とエラーの削減が実現できるでしょう。ただし現時点では、スマートゴーグルは静電気に強い利点があるものの、可動パーツ部分に実務上の課題があり、このテクノロジーはまだ「開発段階」であることを強調しておきます。それ以外のオプションも、同時に検討中です。 

サプライチェーンの即応性

マーケットの動きや顧客需要の変化に企業が適応していくには、即応性の高いサプライチェーン(記事:コスト削減とリスク回避をかなえるEコマースのサプライチェーンにおける即応性- 英語版のみ)の構築が不可欠です。ここでもAIは、たとえば大量の顧客データを分析してその傾向を特定し、今後の需要を予測し、常に最適な在庫レベルを維持できるよう、サプライヤーに必要条件を伝えていく上で、大いに力を発揮します。

また、AIによって各発注の履行状況をモニターし、遅延が生じた場合には、ただちにお客様に最新情報を伝えることも可能です。さらには、価格設定に関する市場動向を把握し、それに応じて価格設定を最適化するなど企業が競争力を維持することにも貢献します。 

AIはサプライチェーンにおける多数の重要ステップを自動化し、作業時間の短縮やコスト削減をするとともに、エンドユーザーへの高品質なサービス提供を可能にしました。 

燃料効率の改善

配送ルートの最適化については先ほど触れた通り、最終的な目的は、配達先1件あたりの車両移動時間を短縮すること、同時に、一定の荷物に対する燃料消費量を最小化することです。世界の燃料価格が高騰している中で、配送車両のアイドリング時間が過剰に長かったり、荷物の積み下ろしプロセスが非効率であるなど、現状の問題を特定・分析することで、大きな改善がもたらされる可能性があります。毎日の配送業務のルート最適化では、AIがリアルタイムの交通と道路状況を考慮して最適なルートを設定、配送車両の遅延を防ぎ、所定の配達先にできるだけ迅速に到着できるようサポートします。もし配送計画に急な変更が加えられたとしても、変化する条件をAIが考慮し、高い配送効率を維持できるようサポートします。  

また、燃料費の削減だけではなく環境を配慮した配送にもなる電気自動車の台頭も重要な要素となります。

カスタマーサービスの向上

ここでまず注目すべきは、チャットボットです。AIコントロールのこの機能によって、対話中のお客様の要望を、より深い部分まで理解できるようになりました。社内の一部のチームでは、すでにAIベースの仮想アシスタントを使用しています。そこでは、お客様からの応答をプロファイリングし、特定の反応ごとに、お客様が示す感情的な反応 (ポジティブかネガティブかなど) を収集することが可能です。このデータを蓄積することで、お客様からの質疑に対して、今まで以上正確で適切な回答を、より短時間のうちに提供できるようになります。 

高度なAIを搭載したチャットボットでは、お客様に対して、企業側からアップセルやクロスセルを提案していく際にも役立ちます。そこでは、お客様ののニーズに寄り添った魅力的な提案が可能となるでしょう。 

また、AIにお客様の嗜好を学習させることで、カスタマーサービスの質の向上にもつなげることが可能です。一例として海外発送を定期的に行っているお客様には、機械学習を活用してお客様の興味や傾向を正確に把握することで、毎回同じような確認やご案内をすることを防げます。さらに関税のHSコードに精通していない中小企業のお客様には、正しい商品分類をより迅速に案内できます。機能の性質上、機械学習の精度は繰り返すことで向上し、お客様へ提供するサービスの質もますます高いものとなっていきます。

ラストマイル配送の未来

ラストマイル配送へのAIの将来的な役割は、まだまだ無限の可能性があると言えます。自動化と機械学習は、今後、物流のあらゆるプロセスを劇的に最適化できるポテンシャルを秘めています。テクノロジーは常に変化しそこからはさらなる最適化、そして多くの改善が、生み出されてゆくでしょう。 

この記事から何か少しでも、ヒントを見つけていただけましたでしょうか。また、DHLの「Logistics Trend Radar (ロジスティクス トレンドレーダー-英語版のみ)」でも、今後数年のうちに劇的に業界を変えるポテンシャルを持った様々なテクノロジーを詳しく取り上げています。トピックの例としては、会話型AI、ドローン、ビッグデータ分析、屋内用搬送ロボットなどがあります。 

物流業界のイノベーションリーダーとして、DHL Expressが最前線の情報とソリューションをお届けします。法人契約をいただくことで、お客様のビジネスが抱える課題を解決し、事業の成長と発展をサポートします。