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サプライチェーンを強化するチャイナプラスX戦略

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グローバル製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、日本企業もサプライチェーン戦略の見直しを迫られています。これまで注目されてきた「チャイナプラスワン 」戦略——すなわち、中国に依存しすぎることを避け、別の1カ国に生産・調達拠点を分散させるアプローチ——は、いまや十分とは言えなくなりつつあります。

本記事では、「チャイナプラスワン」戦略の限界に焦点を当てるとともに、次なる選択肢として注目される「チャイナプラスX」戦略についてご紹介します。この戦略は、サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)をさらに高めるための、より先進的で持続可能なアプローチです。

 

そもそもチャイナプラスワンとは?

「チャイナプラスワン」戦略とは、企業が中国へのサプライチェーン依存を最小化するために、あえて中国以外の国に調達や生産拠点を設ける企業の意図的な取り組みを指します。この戦略では、製品の部品調達や組み立て、最終製造を中国のみに頼るのではなく、複数の国に分散することでリスクを分散させることにあります。

当初、このチャイナプラスワン戦略は複数の要因により推進されました。企業は、東南アジア諸国などでの労働コストの低さを活かしたコスト削減を図りつつ、一つの地域に過度に依存することによるリスクを軽減し、さらに特定市場へのアクセス強化を目指しながらも、中国国内での重要な事業基盤を維持することを目的としていました。

変化の始まり

近年、世界の情勢は大きく変化しており、企業は中国にサプライチェーンを過度に集中させることのリスクを真剣に再考せざるを得なくなっています。
 

  • 米国の輸入関税(2019年)
    2019年、当時のドナルド・トランプ米大統領が中国からの多くの製品に対して大幅な関税を課しました。この急激なコスト増加により、多くの企業は競争力を保つために、代替の調達先の検討を余儀なくされました。
  • COVID-19パンデミック
    前例のないCOVID-19パンデミックと3年間にわたるロックダウンは、特に自動車やコンピュータ、半導体に依存する産業などの生産に深刻な制約をもたらしました。この影響により、中国に集中したサプライチェーンの脆弱性が明らかになりました。
  • 相互関税・報復関税の激化(中国 vs 米国、カナダ、EU)
    中国と米国、カナダ、EUなどの主要経済国との貿易摩擦により、中国製の電気自動車 (EV)、EVバッテリー、太陽光パネル、半導体などに対して最大100%の関税が課されることになりました。これらの措置は、主に国内産業の保護と戦略的な知的財産の盗用懸念に対処するためのものです。
  • 技術(潜在的な脅威と見なされる)
    特に5G技術(ファーウェイやZTEなどの企業が関与)やTikTokのようなソーシャルメディアプラットフォームにおける中国の急速な技術進展は、多くの国で安全保障上の懸念を引き起こし、中国の技術インフラやサプライチェーンへの依存度を見直す動きが強まっています。

 

米国の相互関税と報復関税

相互関税とは、一国が他国によって課された関税や貿易障壁に対して、対抗措置として課す関税のことを指します。この措置は、貿易条件の公平化を図る、または相手国に自らの規制を撤廃させることを目的としています。

一方、報復関税は、相手国の特定の貿易政策や措置が不公平または自国の経済に有害であると判断された場合に、それに対する「懲罰的措置」として導入される関税です。これらの関税は、よりターゲットを絞って経済的ダメージを与えることを目的としており、経済的な圧力を加えることで相手国の行動を変えることを目的としています。

世界の主要製造地域からの輸入品に対する大幅な関税導入や、貿易摩擦の激化は、グローバルなサプライチェーンに深刻な影響を及ぼしてきました。このような環境は、多くの日本企業にとって調達や製造の過度な集中がもたらすリスクを浮彫にする結果となりました。

そのため、関税政策の不透明さや将来的な貿易規制への懸念から、「チャイナプラスワン」モデルのようなサプライチェーンの多様化戦略への関心と導入が加速しました。この戦略的シフトは、地政学的リスクへの影響を最小限にとどめながら、日本にとってより安定した調達および物流体制を実現するための取り組みとして位置づけられています。

 

中国のサプライチェーンのリスクとは?

中国は長年にわたり、世界の製造業の中核を担ってきました。しかし、日本企業にとっては、たとえ「プラスワン」の代替先を設けていたとしても、サプライチェーンを単一の国に大きく依存することには本質的なリスクが伴います。これらのリスクは、慎重に検討すべき重要な要素です。
 

  • 集中リスク
    たとえ「チャイナプラスワン」モデルを採用しても、企業は依然として大きな脆弱性にさらされています。仮に「プラスワン」として選定した国が、自然災害や政情不安、経済の低迷といった自国固有の課題に直面した場合、本来期待されていたリスク分散効果が大きく損なわれてしまいます。わずかな分散では、広範な混乱に対する本当のレジリエンスは得られません。
  • 地政学的リスク
    現在の国際情勢は、貿易の緊張や不安定さが高まっている状況にあります。規制の変化や貿易戦争、外交関係といった要因は、中国のサプライチェーンに予測不可能な影響与える可能性があり、関税や輸出制限、深刻な物流混乱を引き起こすリスクがあります。これは、日本からの国際輸送にも直接的な影響を及ぼしかねません。
  • サプライチェーンの混乱
    地政学的要因にとどまらず、中国のサプライチェーンはさまざまな混乱に直面しています。パンデミック、地域紛争、中国国内の物流停滞などが生産を停止させ、出荷の遅延を招く可能性があります。「プラスワン」として選んだ国であっても、同様に予期せぬ事態に巻き込まれることがあります。
  • 労働コストの上昇
    コスト削減の観点から魅力的だった中国ですが、近年は労働コストが着実に上昇しています。このことは、単一国またはそれに近い形での調達戦略がもたらす経済的メリットを徐々に失わせており、「チャイナプラスワン」戦略をコスト面から見た際の魅力を弱めつつあります。
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新たな常態:チャイナプラスX

単一の代替拠点という「チャイナプラスワン」の限界を超えた先にあるのが、「チャイナプラスX」という新たなサプライチェーン分散戦略です。

サプライチェーンの過度な集中に伴う多面的なリスクが顕在化する中、真の意味での分散化の必要性は、かつてないほど高まっています。

「チャイナプラスX」戦略では、中国に加え、複数の代替地域(“X”)に調達・製造・組立といった機能を分散配置することを目指します。これにより、リスクを地理的に分散させ、将来に向けてより強靭で柔軟なサプライチェーン体制の構築を可能にします。

 

チャイナプラスXアプローチのためのサプライチェーンの多様化方法

「チャイナプラスX」戦略を考える際、日本企業はサプライチェーンの多様化に関する意思決定を的確に行うために、いくつかの重要な要素を慎重に評価する必要があります。これらの要素は、代替拠点における事業展開の適合性や、長期的な成功に大きな影響を与えることになります。

 

1. 輸送

効率的な輸送ネットワークは、「プラスX」戦略を支える重要な基盤です。候補となる代替国における港、道路、鉄道などの整備状況は、商品や資材の移動のしやすさやコストに直接影響を与えます。そのため、インフラの能力や接続性を分析することは、円滑な物流運営を確保するために欠かせません。

輸送コストと輸送時間は、全体的なサプライチェーンの効率にも大きな影響を与えます。輸送コストが高くなると、生産を移転する際のコスト優位性が相殺される可能性があります。また、輸送時間が長くなると、リードタイムや顧客満足度にも影響します。代替の「X」拠点を検討する際には、これらの要素をしっかりと評価することが不可欠です。

 

2. コスト

「プラスX」拠点におけるさまざまなコスト要素を理解することは、サプライチェーンの多様化における財務的に実現の可能性を評価する上で重要です。

  • 労働コスト
    「チャイナプラスワン」戦略の推進要因の一つは、低い労働コストでした。「プラスX」を考える際には、各候補国における労働コストを詳しく比較し、競争力のある選択肢を見極める必要があります。
  • 製造コスト
    労働コストだけでなく、原材料、エネルギー価格、間接費など、製造にかかる全体のコストも各国の魅力度を左右する重要な要素です。これらすべてのコスト項目を包括的に分析することが欠かせません。
  • 関税と税制
    最終的な製造コストに大きな影響を及ぼすのが、関税や税金の要素です。候補地が結んでいる二国間貿易協定、輸出入関税、そして現地の税制などを慎重に精査することが、収益性の確保に直結します。

 

3. 国のインフラ

候補となる「プラスX」国におけるインフラ全体の整備状況は、サプライチェーン要素の設置・運用における実現可能性と効率性に大きく影響します。

  • 物理インフラ
    道路、港、鉄道、公共サービス(電気や水道)などの重要なインフラの状態を評価することは、貨物の円滑な輸送や施設の安定稼働を確保するうえで不可欠です。
  • デジタルインフラ
    現代のサプライチェーン運用においては、信頼性の高いインターネット環境や通信インフラの整備が重要です。これにより、代替拠点における情報連携、業務の可視化、データ駆動型の運用が可能になります。
  • 工業団地・経済特区
    整備された工業団地や経済特区の存在は、大きなメリットとなります。すぐに稼働できる製造施設、簡素化された規制手続き、必要なインフラやサービスへのアクセスといった利点が企業進出を後押しします。

 

4. 人材

「プラスX」候補国における労働力の質は、その拠点が長期的に成功するかどうかを左右する極めて重要な要素です。

高い技能を持つ労働者や専門的な技術力は、製造の質や代替拠点の運営効率に直接影響します。そのため、現地の人材プールを評価し、必要に応じた研修やスキル向上のニーズを見極めることが不可欠です。

また、候補国の労働に関する法制度も、ビジネス運営に大きな影響を及ぼす可能性があります。現地の雇用法規、従業員の権利、社会保障精度を理解することは、規制遵守と人件費管理の両面において重要です。

さらに、日本と候補国との文化的な違いやビジネス習慣の違いを理解し、適切に対応することは、円滑なコミュニケーションや信頼関係の構築、そしてスムーズな協業体制の確立に欠かせません。
 

5. 規制環境

「プラスX」候補国の規制環境は、事業のしやすさやサプライチェーンの多様化に伴う全体的なリスクに大きな影響します。

  • 貿易政策
    市場アクセスや潜在的な貿易障壁を把握するためには、規制、輸出入手続き、関税、自由貿易協定(FTA)への加盟状況など、候補国の貿易政策や規制を詳細に分析することが重要です。
  • 投資政策
    税制優遇、補助金、投資保護協定など、候補国が提供する投資インセンティブの内容によって、事業設立のコストや難易度が左右されます。こうした制度の魅力度を評価することは、拠点選定において大きな判断材料となります。
  • 知的財産保護
    独自技術やデザインを扱う日本企業にとっては、候補国の知的財産保護に関する法制度とその運用体制の強さが極めて重要です。信頼できる保護制度が整備されているかを見極めることが、リスク回避と安心した事業展開の鍵となります。

 

適切な「プラスX」パートナーの選定

「チャイナプラスX」戦略を成功させるためには、複数の代替候補国を総合的に評価し、長期的なレジリエンス(強靭性)とオペレーションの効率性を確保できる選定が不可欠です。

  • 地政学的安定性
    政策変更や紛争といったリスクを最小限に抑えるため、候補国の政治的・経済的な安定性を評価することが重要です。
  • 貿易協定
    日本と候補国との間に結ばれている貿易協定を確認し、関税の影響や市場アクセスのしやすさを見極めましょう。
  • 産業特化の有無
    自社の業種において、すでに実績やインフラが整っている国を選ぶことで、既存のノウハウや供給体制を活用することができます。
  • 拡張性と成長性
    将来的な事業拡大に対応できる余地があるかどうか、長期的なビジネスニーズに応えられる成長ポテンシャルがあるかを分析することが大切です。
  • 文化・言語の適合性
    文化的背景や言語の違いを理解し、円滑なコミュニケーションと協働体制を築けるかどうかも、現地での業務推進には欠かせない視点です。

 

また、潜在的な地域を探ると、東南アジアはコスト競争力と発展途上のインフラが魅力的に整っています。ベトナム、インドネシア、タイなどの国々は、重要な製造投資を引き寄せています。さらに、南アジア、特にインドは大きな市場の可能性と成長する製造セクターを持っています。メキシコは北米市場に近く、特定の東欧諸国はEUへのアクセスを提供しています。それぞれの地域には、コスト、インフラ、規制環境において独自の強みと弱みがあります。

 

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サプライチェーン多様化をDHL Expressとともに

「チャイナプラスX」戦略は、サプライチェーン多様化の重要な進化を示しており、単一の代替拠点を超えて複数の地域にリスクを分散し、複雑化するグローバル環境で真の強靭性を築くアプローチです。

中国は引き続き多くのグローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を担うものの、リスクを複数の地域に分散する必要性はますます明確になっています。

積極的にサプライチェーン管理を見直し、多様化した代替策を模索する日本企業は、将来の不確実性を乗り越え、持続的な成長を実現するための有利な立場を築けるでしょう。

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1 - Yahoo Finance, 22 April 2025

2 - Japan Research Institute, 18 April 2025