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ライフサイエンス・ヘルスケア産業における 国際物流の新たな挑戦

a nurse taking out a syringe

臨床試験の成功を支える「スピード」と「温度管理」

国境を超えるライフサイエンス物流

医薬品の研究開発は、かつてないスピードでグローバル化しています。臨床試験の国際共同化が進み、一つの治験に複数国が参加することも珍しくありません。WHOのGlobal Observatory(ICTRP由来データの可視化)では、地域別の臨床試験登録動向が示され、複数地域で長期的に増加傾向が確認できます。また、ClinicalTrials.govは世界中(多数の国・地域)にまたがる試験情報を集約する公開データベースとして運用されています。こうした流れの中で、検体、治験薬、医療機器といったライフサイエンス貨物が、日々国境を越えて移動する時代が到来しました。

日本の製薬企業やCRO(医薬品開発業務受託機関)にとって、この変化は新しい物流課題を突きつけています。東京の臨床試験施設で採取された血液検体が、短期間で海外の中央検査機関で解析される――そのようなオペレーションが日常的に求められるようになりました。一方で、海外で製造された治験薬を日本の医療機関に届ける逆方向の流れも活発化しています。

これらの貨物に共通するのは、「時間」と「温度」という二つの厳しい制約です。わずかな遅延や温度逸脱が、研究成果の信頼性を損ない、臨床試験のスケジュール全体に波及します。本記事では、ライフサイエンス分野の物流に携わる関係者が直面する現実的な課題を整理し、信頼できる国際物流パートナーに求められる条件を考えます。

 

時間との闘い: 検体・治験薬輸送の厳しい制約

研究結果を左右する検体の"鮮度"

臨床試験において、検体の品質は研究データの生命線です。血液検体や組織サンプルは、採取された瞬間から劣化が始まると言っても過言ではありません。検体の種類や測定項目、治験実施計画書に定められた手順(プロトコル)によって、許容される時間は厳密に定められており、短いものでは数時間単位のものもあります。

たとえば、都内の医療機関で採血した検体を欧州の中央検査機関に届ける場合を想像してみてください。検体の安定性が保証される時間から逆算すると、集荷、空港への輸送、通関、フライト、到着国での通関、最終配送までの全プロセスを、驚くほど短い猶予時間の中で完了させなければなりません。一つでも工程に遅延が生じれば、最悪の場合検体は使用不能となり、被験者からもう一度、採血をしなければなりません。

 

 

Barcode reading in medical lab

治験スケジュールの遅延がもたらす連鎖的影響

検体だけでなく、治験薬の配送遅延も臨床試験に大きな影響を与えます。臨床試験にはクリティカルパス、すなわち遅延が連鎖的に試験全体を止めてしまうプロセス上の急所があり、物流はその中核を担っています。治験薬が予定通りに届かなければ、被験者への投与スケジュールが崩れ、プロトコルからの逸脱が生じます。一つの施設での遅延が、全体の進行を数週間、場合によっては数カ月遅らせる事態にもなりかねません。

製薬企業にとって、臨床試験の遅延は開発コストの増大と上市時期の後ろ倒しに直結します。CROの立場からも、受託先である製薬企業などスポンサー企業との契約上のマイルストーンに影響が及ぶため、物流の信頼性は事業継続そのものに影響を与える重要なファクターと言えるでしょう。

医療機器の緊急部品配送

臨床試験や検査の現場で使われる高度な分析機器・診断装置が故障した場合、その影響は甚大です。機器の稼働停止は検査業務全体をストップさせ、検体の処理が滞り、試験スケジュールに連鎖的な遅延をもたらします。稼働停止の影響が大きい機器ほど、交換部品をできるだけ短時間で手配・配送することが求められます。海外メーカーの機器であれば、部品を国際輸送で調達する必要が生じ、緊急なオーダーに対応可能な物流パートナーの存在が不可欠となります。

温度管理という複雑な要件

モダリティの多様化と温度帯の複雑化

医薬品のモダリティ(治療様式)が多様化する中、物流に求められる温度管理の要件も複雑さを増しています。

従来の低分子医薬品であれば、常温から室温での管理が一般的でした。しかし、抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の多くは冷蔵帯(代表的には2〜8℃)での管理が不可欠です。さらに、一部のワクチンや生物学的製剤は冷凍帯での管理が必要となります。近年急速に発展している細胞治療や遺伝子治療(CGT)の領域では、液体窒素温度(-196℃付近)でのクライオジェニック輸送が求められるケースもあり、物流インフラへの要求水準はかつてなく高まっています。

臨床試験で扱う検体についても同様です。血液検体一つとっても、全血、血清、血漿では求められる保存条件が異なり、例えば特定のバイオマーカーの測定に用いられる検体は採取直後から厳密な温度管理下に置かなければなりません。モダリティと検体の多様化は、物流パートナーに対して、複数の温度帯に対応できる柔軟性を求めています。

 

輸送中の温度逸脱リスク

コールドチェーン(低温物流網)を途切れなく維持することは、簡単ではありません。特に国際輸送では、集荷から最終配送までの間に、空港での通関待ち、ハブ空港での乗り継ぎ、到着国でのラストマイル配送と、温度管理が途切れやすいポイントが複数存在します。

一度でも温度逸脱が発生すれば、その貨物は使用不能となる可能性があります。治験薬であれば廃棄と再送が必要になり、検体であれば被験者への再度の負担が発生します。いずれの場合も、金銭的損失にとどまらず、臨床試験のスケジュールに深刻な影響を与えます。物流の現場では、温度逸脱を「起こさない」ための予防策と、万が一発生が懸念される場合の迅速なリカバリー対応の両方が求められます。

 

コンディショニングの重要性

ここで見落とされがちなのが、発送側――すなわち製薬企業やCRO、医療機関の担当者による「コンディショニング」の重要性です。いかに優れた物流ネットワークを持つパートナーを選んでも、そもそもの梱包設計が不適切であれば、温度管理は破綻します。

適切な保冷材の選定、梱包材の組み合わせ、輸送時間を逆算した上でのコンディショニング設計――これらは出荷者側の責任領域であり、専門的なノウハウが必要です。信頼できる物流パートナーは、輸送を引き受けるだけでなく、こうしたコンディショニング設計の段階から相談に乗り、最適な梱包ソリューションを提案できることが望ましいと言えます。DHL Expressが提供する「サーモボックス(Thermo box)」は、常温・低温(+2℃〜+8℃)・冷凍(-20℃以下)の各温度帯をカバーする温度管理用梱包材として用意されています。

A man with conditioned package in a hospital

グローバルネットワークの必要性

世界中に迅速に届けられるネットワーク体制

臨床試験のグローバル化に伴い、物流パートナーには世界中のあらゆる地点間で迅速に貨物を届ける能力が求められています。東京からフランクフルトへ、シンガポールからボストンへ、ムンバイからロンドンへ――こうした多様な輸送ルートを、一貫した品質で運用できるかどうかが、パートナー選定の大きな基準となります。

複数の物流業者を使い分ける運用は、管理の複雑化とリスクの増大を招きます。ある区間で遅延が発生した際に、別の業者が担当する次の区間との連携が取れず、結果として温度管理の破綻やスケジュールの逸脱につながることがあります。単一のサービスプロバイダーが集荷から配送までをワンストップで完結できれば、こうしたリスクは大幅に低減されます。

DHL Expressは、「220以上の国と地域」を自社グローバルネットワークでカバーし、集荷から、通関、保管、配送を一貫運用できる体制を強みとしています。特に時間制約の厳しいライフサイエンス貨物の輸送において、この一貫性は大きなアドバンテージとなり得ます。

 

各国の規制と通関対応

医薬品や検体の国際輸送には、各国固有の輸入規制、書類要件、通関手続きが伴います。未承認薬の輸入手続き、生物学的検体の輸送に必要な許可証、危険物分類に基づく包装要件など、一つの出荷案件に複数の規制要件が重なることは珍しくありません。

こうした規制対応を輸送のたびに自社で行うのは、多大な労力とリスクを伴います。グローバルで標準化されたオペレーションと、各国の規制に精通した現地スタッフを擁する物流パートナーの存在は、コンプライアンスリスクを低減するだけでなく、迅速な通関にも直結します。日本国内でも、厚生労働省のGDPガイドラインで、流通過程の品質確保・完全性維持の考え方が示されています。

 

トラッキングと可視化

「今、荷物はどこにあるのか」――この問いにリアルタイムで答えられることの価値は、ライフサイエンス物流において極めて大きいものです。温度管理が必要な貨物が、どのような状況でどこにあるのかを把握することは、異常の早期発見と迅速な対応に繋がります。

DHLのMedical Expressは、専任スタッフによるリアルタイムモニタリングを提供しています。貨物の可視化は、単なる安心感にとどまらず、サプライチェーン全体の最適化と継続的な業務改善の基盤となります。

ライフサイエンス物流パートナーに求められる条件

ここまで述べてきた課題を踏まえ、製薬企業やCROがライフサイエンス物流パートナーを選定する際に重視すべき条件を整理します。

 

条件

ポイント

スピード最優先の配送体制

タイムクリティカルな検体・治験薬に対応できる緊急配送力。通常便だけでなく、当日配送や特別アレンジが可能か

温度管理の信頼性

常温・冷蔵・冷凍の各温度帯に対応した梱包ソリューション。パッケージの持続時間内に確実に届けるオペレーション

グローバルな拠点網

世界主要都市へのダイレクトアクセス。複数業者の使い分けが不要なワンストップ体制

規制・通関への精通

各国の輸入規制、GDP(医薬品の適正流通)ガイドラインへの理解、必要書類の作成支援[4]

可視化とコミュニケーション

リアルタイムの貨物追跡、異常時の迅速な通知と代替手段の提案[2]

顧客との協働姿勢

梱包設計・コンディショニングの事前相談対応、業界知見に基づく最適なソリューション提案

重要なのは、これらの条件が「カタログ上の機能」ではなく、実際のオペレーションとして機能しているかどうかです。物流パートナーの真価は、通常運用時はもちろん、フライトの遅延、自然災害、パンデミックのような想定外の事態が発生したときにこそ問われます。日本では、地震や台風などの自然災害が多く、事業継続計画(BCP)の観点からも、自社の柔軟な物流ネットワークを持つ企業をパートナーとして選ぶことが望ましいです。

Kurir DHL dengan percaya diri membawa paket kuning bermerek melintasi jembatan modern, melambangkan kecepatan, keandalan, dan konektivitas logistik global. Citra tersebut menyampaikan profesionalisme dan layanan yang efisien dalam pengiriman paket.

進化する物流がイノベーションを支える

ライフサイエンス産業のイノベーションは、物流の進化と表裏一体の関係にあります。いかに画期的な新薬候補が見出されても、それを必要な場所に、必要な品質で、必要な時間内に届けられなければ、治療の可能性は現実のものとはなりません。臨床試験のグローバル化、モダリティの多様化、そして規制環境の複雑化――こうした潮流が加速する中、物流パートナーの役割はますます重要になっています。

スピードを最優先としながら、確実な温度管理と堅牢な梱包で貨物を守り、世界中へタイムリーに届ける。その一貫したサービスを、単一のプロバイダーとして提供できること――それが、ライフサイエンス物流に求められる本質的な価値です。

DHL Expressは、ライフサイエンス・ヘルスケア分野における「30年以上の国際輸送経験」を掲げ、ヘルスケア物流に精通したスペシャリストが相談に応じています。また、DHLメディカルエクスプレス(Medical Express)の他にも、24時間オーダーを受け付け、ハンドキャリーなどにも対応する緊急時に特化した「DHL SAMEDAY」もラインナップしています。

「届ける力」が、治療の可能性を切り拓きます。信頼できる物流パートナーとの協働が、ライフサイエンス産業の未来を支える鍵となるでしょう。