近年、企業に求められるサステナビリティ対応の中でも、物流分野における脱炭素化は重要なテーマとなっています。
特に上場企業を中心に、Scope3排出量の開示や削減への対応が求められる中で、荷主企業には従来の延長線上ではない新たな物流戦略が必要とされています。
本記事では、株式会社三菱総合研究所による寄稿として、脱炭素物流に向けて荷主企業が直面する課題と今後の方向性について解説します。
本寄稿のポイント
- 脱炭素物流は従来の省エネの延長では実現できない
- Scope3排出量の開示強化により、荷主企業の責任が拡大している
- EV・SAF・代替燃料などの導入により物流コストは上昇する可能性が高い
- 環境価値取引(Book & Claimなど)の活用が今後重要になる
- 排出量の「見える化」とデータ管理体制の整備が最大の課題
- 脱炭素対応は物流だけでなくサプライチェーン全体の改革につながる
※本記事は外部専門家による寄稿です。
著者:株式会社三菱総合研究所 GX本部脱炭素イノベーショングループ主席研究員 永村知之
物流のステージが上がる:
上場企業の荷主が直面する脱炭素物流に向けた課題と可能性
短期:自社車両等直接アプローチしやすい領域では脱炭素エネル ギーを実際に調達しつつ、委託物流には環境価値取引で一部導入
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中期:自社車両等への導入を引き続き進めつつ、委託物流には都市部の配送等導入しやすい領域では脱炭素エネルギーの実物導入を一部進め、環境価値取引も拡大
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長期:脱炭素エネルギーを実際に調達し、物理的に脱炭素物流を達成。ただし、船舶・航空等で脱炭素エネルギーを直接選択できない場合は環境価値取引を補完的に利用
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[4] Greenhouse Gas Protocol, “Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update White Paper”, 19 December 2025
徹底した見える化の重要性
現在Scope3排出量のうち、カテゴリー4の輸送・配送については算定・報告している荷主が多くなっており、検証まで受けている企業の割合も2023年時点で50%を超えている[5]。しかし、多くは荷主が把握した輸送トンキロからの換算等二次データによる算定にとどまっており、実際の輸送での排出量を直接把握して算定することはできていないことが多い。この場合、仮に脱炭素物流に切り替えたとしても排出量に反映されず削減効果を享受することはできないため、脱炭素エネルギーを利用する動機がなくなってしまう。
また、脱炭素エネルギーを利用すればコスト増になるため、省エネ対策の効果がさらに高まり重要性を増す。しかし、従来の対策からレベルを上げていくためにはもっと徹底して削減余地を探していかなければならない。そのためにDXを推進するのは有効な方向性ではあるが、データ化が前提となる。データ化にはコストがかかったり、情報が見えてしまうことによる取引上の悪影響を懸念して取引先から協力が得られなかったりと障壁が多いため、十分にできておらず情報が途切れてしまっているのが現実である。ここを自社利益となるコスト削減だけではなく、取引先へのメリット、さらには地球環境保護への貢献という公益的価値とをあわせて納得が得られる構図を描く必要がある。
[5] CDP「CDP 気候変動レポート 2023: 日本版」2024年3月、p29、Fig.29
削減機会をどう探索するか
取組を行う上で重要なのは実際にメリットがあることを実証することである。このためには削減機会を探し、脱炭素への取組やそれに向かうための徹底した見える化の有効性を示していく必要がある。
具体的な削減機会は各社の置かれている状況によっても異なるが、例えば以下のような取組が考えられる。
1.リードタイムが短く設定されている場合、リードタイムをもっと確保できれば、緊急輸送としての航空輸送の回避や、鉄道や船舶へのモーダルシフトも可能となるだろう。そのためには需要予測精度を上げより正確なタイミングで輸送の発注を行うこと、在庫管理の精度を上げて適正な輸送量に管理すること等を追求していく必要がある。
2.車両の積載率がどの程度か十分把握していない場合、仮に積載率が低いまま輸送しているのであれば、積載率を管理することで車両の台数を減らした輸送計画の設定や集荷と配送の一体化、さらには他社との共同物流等を検討する余地があるだろう。物流は日々変動するため動的な環境下で有効に機能する配車計画を確立していく必要がある。
このような対策は必ずしも物流だけに限定した取組にはとどまらない。例えば、リードタイムは工場の生産や倉庫の作業のタイミングとも関連しているため、生産体制等も含めたサプライチェーンの改善策を講じていくことが有効となる。
排出量や環境価値の管理・分析体制の整備
徹底した見える化と削減機会の探索による省エネ等でエネルギーコストを抑制しつつ、脱炭素エネルギーの導入により排出係数の低減につなげていくことになるが、それには環境価値の利用も進めていくことが必要となるだろう。この際、二重計上等を防ぐとともに、様々なサステナビリティ開示に対応できるよう、排出量だけでなく環境価値の利用状況も明確に説明できるような管理体制を構築していくことが必要である。このような管理体制はDX化とあわせて構築し、削減機会を分析する体制も整備するのが望ましい。
このように考えると、取り組むべきことが多くどこから取り組むべきか悩むかもしれない。まずは徹底した見える化を削減余地がありそうなところで段階的に導入し効果を実証しながら進めるのが良いだろう。あわせて、環境価値の利用を試行していくのが良いと思われる。
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