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その物流、まだ“延長線”で考えていませんか?脱炭素時代に荷主が迫られる変革

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近年、企業に求められるサステナビリティ対応の中でも、物流分野における脱炭素化は重要なテーマとなっています。
特に上場企業を中心に、Scope3排出量の開示や削減への対応が求められる中で、荷主企業には従来の延長線上ではない新たな物流戦略が必要とされています。

本記事では、株式会社三菱総合研究所による寄稿として、脱炭素物流に向けて荷主企業が直面する課題と今後の方向性について解説します。

本寄稿のポイント

  • 脱炭素物流は従来の省エネの延長では実現できない
  • Scope3排出量の開示強化により、荷主企業の責任が拡大している
  • EV・SAF・代替燃料などの導入により物流コストは上昇する可能性が高い
  • 環境価値取引(Book & Claimなど)の活用が今後重要になる
  • 排出量の「見える化」とデータ管理体制の整備が最大の課題
  • 脱炭素対応は物流だけでなくサプライチェーン全体の改革につながる

 

※本記事は外部専門家による寄稿です。

著者:株式会社三菱総合研究所   GX本部脱炭素イノベーショングループ主席研究員 永村知之


物流のステージが上がる:

上場企業の荷主が直面する脱炭素物流に向けた課題と可能性

脱炭素をイメージしたグリーンの葉とCO2の文字

迫りくる脱炭素物流への潮流

地球温暖化への取組が重要だと言われてから30年以上経て、日本でも2020年に当時の菅総理が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、時代は脱炭素を目標として動いている。米国トランプ大統領がパリ協定を離脱し、金融機関が国際的な脱炭素の枠組み(GFANZ:グラスゴー金融同盟傘下のNZBA:ネットゼロ銀行同盟等)から離脱する等、気候変動対策への逆風も吹くが、全体としては脱炭素に向けて着々と歩みを進めている。国内では、2025年2月に閣議決定されたエネルギー基本計画、地球温暖化対策計画では明確に脱炭素に向けた取り組みが打ち出されるとともに、同年11月に立ち上げられた日本成長戦略本部で資源・エネルギー安全保障・GXも17の戦略分野の一つと位置付けられ国内政策もますます強化されている。

こうした中、物流においても、脱炭素を目標とした取組が推進されている。現行の総合物流施策大綱(2021~2025年度)[1]、次期見直しの議論[2]においても脱炭素の取組を物流政策の一つと位置付けている。こうした脱炭素に向けた取組には従来から行ってきた省エネ対策も含まれているものの、省エネ対策は毎年1%改善のような漸進的な改善を進めているところで、これを積み重ねていっても脱炭素には遠く及ばない。また長年省エネ取組を行っている大手荷主等では、もう乾いた雑巾を絞るようなもので、自社内でできることは限られており、他社との共同等に広げるしかないという声も聞こえてくるようになっている。

一方で、最近は有価証券報告書でのサステナビリティ開示の義務化等、サステナビリティ開示の重要性が増している。有価証券報告書では現状はどのような内容で開示を行うかは任意となっているが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)又はそれと同等の枠組みにそって開示することを推奨されている。また、今後はサステナビリティ関連事項の開示基準としてSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準を採用し、記載内容の標準化を進める方向となっている。これらを通じ、荷主としてのScope3排出量(バリューチェーンを通じた間接排出量)全体の報告が必須となる方向である。ここで、有価証券報告書へのSSBJ基準の適用は段階的に進み、東証プライム市場上場で時価総額3兆円以上の企業には2027年3月期から適用が開始され、5000億円未満の企業の適用時期は決まっていない。[3]しかしながら法的規制はなくとも投資家がサステナビリティの取組を評価する流れが強まっている。例えば、東証プライム市場上場企業に対しては東証によるコーポレートガバナンス・コードでサステナビリティ開示が求められ、任意の取組ではあるが世界的に影響力を増しているCDP(旧称:カーボンディスクロージャープロジェクト)、SBTi(科学的根拠に基づいた削減目標イニシアチブ)等の気候変動イニシアチブを通じて開示を求められる等、実質的には必須の対応となりつつある。そこでは排出量を開示するだけではなく脱炭素に向けた取り組みの状況を示していかなければならない。

これらを踏まえると、プライム上場企業であれば、荷主としても従来の延長線上ではなく、脱炭素実現のために物流のあり方を大きく変えていく必要がある。

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[1]「地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築(カーボンニュートラルの実現等)」総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)

[2]「物流に携わる多様な関係者の連携・協力による物流標準化と物流DX・GXの推進」第8回 2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会 資料1-1, 1-2

[3] 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告」令和8年1月8日

脱炭素物流にどう近づくか

脱炭素は排出量を実質ゼロにすることが求められていることから、数%の改善を積み上げるだけではなく、従来とは異なる抜本的な対策が必要となる。このため、CO2を排出しないエネルギー源に転換し、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)等の新たな輸送手段を利用することが必要となる。都市内の配送のような短距離、小規模輸送であればEVへの転換が有力な選択肢となるだろう。一方、EVの場合には充電池の容量の問題で航続距離が限られ、また重量が重くなるので積載量が減少する等、輸送手段によって得意とする領域が限られる。現状では大型車、航空機等では電気をエネルギー源とすることは難しく、水素は転換コストが大きいことから、合成燃料、バイオ燃料等の脱炭素燃料の利用も考慮する必要がある。

それではどうすれば荷主としてはこれらの脱炭素エネルギーを利用して物流の脱炭素化を進めることができるのだろうか。車両やエネルギーコストが高くなることから物流費が上昇するとともに、初期段階ではそのような燃料や輸送サービスを提供できる事業者が限られているため、選択することが難しいという壁に突き当たる。この状況を受けて、脱炭素という環境価値を燃料本体から切り離して別途流通する仕組みが登場してきた。これは、物理的にはつながっていないとしても、脱炭素エネルギーを使った輸送サービスであるという環境価値を、脱炭素燃料を使っているという属性やCO2削減効果として実際に提供している物流事業者から、荷主が利用している物流事業者に移転することで脱炭素物流を荷主が利用したとみなすという考え方であり、ブックアンドクレイム方式と呼ばれている。環境価値の二重計上等の不適切な利用が起きれば取組の信頼性が失われるため、環境価値を管理するための方法論やレジストリが数多く立ち上がりつつある。

脱炭素を目指す荷主にとって気になるのは、この考え方が排出量の算定方法として認められるのかという点だろう。国際標準であるGHGプロトコルやISO14064-1等ではまだ認められていないが、現在まさに見直しに向けて議論中である。GHGインベントリを従来の物理的排出に基づく物理的インベントリだけではなく環境価値の契約による調達を反映した契約インベントリにも拡大する方向が打ち出されている[4]ことから、今後認められる方向ではないかと考えられる。

上記を考えると、当面は、自社車両や物流子会社の車両等自社で管理可能な輸送手段に対しては、脱炭素エネルギー自体の入手を試みつつ、その他の委託輸送(トラック、船舶、航空機)では脱炭素エネルギーの環境価値を導入していくことが必要ではないか。車両の更新やインフラの整備にも時間を要することから、具体的には以下のように段階的に導入を進めることが考えられる。なお、荷主として自家輸送以外は委託先にエネルギーの調達を働きかける、利用している委託先を選択することを通じて脱炭素物流を進めることとなる。

短期:自社車両等直接アプローチしやすい領域では脱炭素エネル ギーを実際に調達しつつ、委託物流には環境価値取引で一部導入

              

中期:自社車両等への導入を引き続き進めつつ、委託物流には都市部の配送等導入しやすい領域では脱炭素エネルギーの実物導入を一部進め、環境価値取引も拡大

              ↓

長期:脱炭素エネルギーを実際に調達し、物理的に脱炭素物流を達成。ただし、船舶・航空等で脱炭素エネルギーを直接選択できない場合は環境価値取引を補完的に利用

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[4] Greenhouse Gas Protocol, “Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update White Paper”, 19 December 2025

 

図式化した脱炭素に向けて必要となる対策

脱炭素物流に向けて必要となる発想の転換

このような脱炭素物流を導入しようとした場合、コスト削減と連動していた省エネ取組とは異なり、物流コスト増の世界に足を踏み入れざるを得ない。この場合でも省エネを行えばその分コスト削減につながるため、省エネの価値がより高まっていくことになる。従来手間やコストの関係で諦めていた徹底した対策も必要となるだろう。

また、現状では委託先が多重構造で実際の車両がどのように運用されているか見えないままの場合が多いが、この状態を放置すると、仮に脱炭素物流を導入してもそれを排出削減として評価できない。それでも脱炭素を推し進めようとすると、不必要な削減コスト負担が発生する恐れもある。

以上から、脱炭素に踏み出すためには、右記のような変化が必要である。

また、これを実現するためには、徹底した見える化、削減機会の探索、排出量や環境価値の管理・分析体制の整備を段階的に進めていくことが必要である。

出所)IEAウェブサイト” Cost of abatement and emissions avoided as a result of selected Sustainable Recovery Plan measures, by category”, (閲覧日2026年3月13日)に筆者一部加筆

徹底した見える化の重要性

現在Scope3排出量のうち、カテゴリー4の輸送・配送については算定・報告している荷主が多くなっており、検証まで受けている企業の割合も2023年時点で50%を超えている[5]。しかし、多くは荷主が把握した輸送トンキロからの換算等二次データによる算定にとどまっており、実際の輸送での排出量を直接把握して算定することはできていないことが多い。この場合、仮に脱炭素物流に切り替えたとしても排出量に反映されず削減効果を享受することはできないため、脱炭素エネルギーを利用する動機がなくなってしまう。

また、脱炭素エネルギーを利用すればコスト増になるため、省エネ対策の効果がさらに高まり重要性を増す。しかし、従来の対策からレベルを上げていくためにはもっと徹底して削減余地を探していかなければならない。そのためにDXを推進するのは有効な方向性ではあるが、データ化が前提となる。データ化にはコストがかかったり、情報が見えてしまうことによる取引上の悪影響を懸念して取引先から協力が得られなかったりと障壁が多いため、十分にできておらず情報が途切れてしまっているのが現実である。ここを自社利益となるコスト削減だけではなく、取引先へのメリット、さらには地球環境保護への貢献という公益的価値とをあわせて納得が得られる構図を描く必要がある。

[5] CDP「CDP 気候変動レポート 2023: 日本版」2024年3月、p29、Fig.29

 

削減機会をどう探索するか

取組を行う上で重要なのは実際にメリットがあることを実証することである。このためには削減機会を探し、脱炭素への取組やそれに向かうための徹底した見える化の有効性を示していく必要がある。

具体的な削減機会は各社の置かれている状況によっても異なるが、例えば以下のような取組が考えられる。

1.リードタイムが短く設定されている場合、リードタイムをもっと確保できれば、緊急輸送としての航空輸送の回避や、鉄道や船舶へのモーダルシフトも可能となるだろう。そのためには需要予測精度を上げより正確なタイミングで輸送の発注を行うこと、在庫管理の精度を上げて適正な輸送量に管理すること等を追求していく必要がある。

2.車両の積載率がどの程度か十分把握していない場合、仮に積載率が低いまま輸送しているのであれば、積載率を管理することで車両の台数を減らした輸送計画の設定や集荷と配送の一体化、さらには他社との共同物流等を検討する余地があるだろう。物流は日々変動するため動的な環境下で有効に機能する配車計画を確立していく必要がある。

このような対策は必ずしも物流だけに限定した取組にはとどまらない。例えば、リードタイムは工場の生産や倉庫の作業のタイミングとも関連しているため、生産体制等も含めたサプライチェーンの改善策を講じていくことが有効となる。

 

排出量や環境価値の管理・分析体制の整備

徹底した見える化と削減機会の探索による省エネ等でエネルギーコストを抑制しつつ、脱炭素エネルギーの導入により排出係数の低減につなげていくことになるが、それには環境価値の利用も進めていくことが必要となるだろう。この際、二重計上等を防ぐとともに、様々なサステナビリティ開示に対応できるよう、排出量だけでなく環境価値の利用状況も明確に説明できるような管理体制を構築していくことが必要である。このような管理体制はDX化とあわせて構築し、削減機会を分析する体制も整備するのが望ましい。

このように考えると、取り組むべきことが多くどこから取り組むべきか悩むかもしれない。まずは徹底した見える化を削減余地がありそうなところで段階的に導入し効果を実証しながら進めるのが良いだろう。あわせて、環境価値の利用を試行していくのが良いと思われる。

 

切り開く未来をイメージしたガラス球体に見える一面のグリーン

脱炭素物流が切り開く未来

このように、脱炭素物流は従来の物流の単純な延長線上にはなく、輸送のあり方、業務のあり方を変えていくことになる。このような新たなステージにいち早くたどり着いた者が脱炭素物流のアピールが可能になる。実現するためにはインフラの整備、ノウハウの蓄積等備えていく必要があり時間を要することから早くから進めていく必要がある。

またこれは単に脱炭素という側面から優れているというだけではない。需要予測精度の向上による販売量の増加、長時間労働の縮減による輸送力の確保等新たな価値創出へつながっていく。脱炭素を契機に一段進化した物流像を未来に提示する。そういう企業が真に競争力のある企業となるだろう。

著者

著者:株式会社三菱総合研究所   GX本部 脱炭素イノベーショング ループ 主席研究員 永村知之

略歴:

1997年3月 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学修了

1994年4月 株式会社三菱総合研究所 入社、現在に至る

専門分野:

脱炭素燃料(バイオ燃料、SAF等)、環境価値の評価、排出量の算定


DHLでは、持続可能な輸送ソリューションを通じて、お客様の脱炭素目標の達成を支援しています。
SAF(持続可能な航空燃料)を活用した輸送サービスや、GoGreenソリューションなどにより、Scope3排出量削減に貢献する物流の実現が可能です。

脱炭素物流への取り組みについては、お気軽にDHLまでお問い合わせください。